野晒し村

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野晒し村

 私は今、薄暗い部屋でこの手記を書いている。  影に潜んだ「彼女」の視線をずっと感じながら。  今もこの国には、地図にない場所、名前のない土地が確かに存在する。  それにはきっと意味がある。造るのに価値があるのと同じくらい、失われるのを必要とした理由がある。  そう、私がこの手記を伝えることにも。  この古びた万年筆で書いた手記をあなたが目にしたのなら、一度、地図を広げてみてほしい。  その名前のない場所に住む彼らはひっそりと息を潜め、そして間違いなく、あなたを待っているのだから。
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