野晒し村

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 村の人柱となった紅緋は、生きたまま鳥に皮膚を剥がれ、肉をえぐられ、臓器を喰われていった。  彼女は腐り果てていく自分の体を見つめながら、それでもなお生き続けたいと望んだに違いない。  だがそれが叶えられないと分かった時、彼女は身代わりとなる命を欲した。誰かの命が自分と同じように晒され失われていく瞬間にだけ、彼女は(はかな)くも愛おしい生命の息吹に触れることが出来たのだ。  たとえそれが、永遠に満たされることのない望みだとしても。  口づけする紅緋の目から、赤い涙がつたう。  私は紅緋の頬に手を当て、その涙に触れる。赤い雫が私の手を伝い、流れ落ちていく。  だがその時――、  私の体をきつく抱きしめた彼女の体が……次第に溶け出していく。 「紅……緋」 「助け……て……」  初めて彼女は口を開く。だがそう告げた顔の皮膚は剥がれ、剥き出しになった赤い肉がずるりと骨から削げ落ちる。鮮血が白装束を赤く染めていく中、紅緋の眼球が、脳が、内蔵が……溶け出すたびに私の全身に浴びせられていく。  その生温かい血肉が、私の中に入ってくるような気がした。 「紅緋……」  朽ち果てていく彼女の血肉に塗れながら、私は半ば白骨と化した彼女の体を抱きしめる。  永遠に閉ざされたこの千咒峡という世界で、  立ち込める白い霧と血の匂いの中で、  私は意識が絶ち消えるまで、ずっと……、  血に塗れた紅緋の体を抱き続けた。
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