153人が本棚に入れています
本棚に追加
村の人柱となった紅緋は、生きたまま鳥に皮膚を剥がれ、肉をえぐられ、臓器を喰われていった。
彼女は腐り果てていく自分の体を見つめながら、それでもなお生き続けたいと望んだに違いない。
だがそれが叶えられないと分かった時、彼女は身代わりとなる命を欲した。誰かの命が自分と同じように晒され失われていく瞬間にだけ、彼女は儚くも愛おしい生命の息吹に触れることが出来たのだ。
たとえそれが、永遠に満たされることのない望みだとしても。
口づけする紅緋の目から、赤い涙がつたう。
私は紅緋の頬に手を当て、その涙に触れる。赤い雫が私の手を伝い、流れ落ちていく。
だがその時――、
私の体をきつく抱きしめた彼女の体が……次第に溶け出していく。
「紅……緋」
「助け……て……」
初めて彼女は口を開く。だがそう告げた顔の皮膚は剥がれ、剥き出しになった赤い肉がずるりと骨から削げ落ちる。鮮血が白装束を赤く染めていく中、紅緋の眼球が、脳が、内蔵が……溶け出すたびに私の全身に浴びせられていく。
その生温かい血肉が、私の中に入ってくるような気がした。
「紅緋……」
朽ち果てていく彼女の血肉に塗れながら、私は半ば白骨と化した彼女の体を抱きしめる。
永遠に閉ざされたこの千咒峡という世界で、
立ち込める白い霧と血の匂いの中で、
私は意識が絶ち消えるまで、ずっと……、
血に塗れた紅緋の体を抱き続けた。
最初のコメントを投稿しよう!