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うっすらと目を開けた時、視界に映ったのは灰色の天井だった。
無機質に煌々と灯る照明をぼんやりと見つめていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「気分はどうだ?」
ぶっきらぼうだがどこか懐かしい声だった。首を傾けると、ベッドの脇に座っていたのは編集長の国代だった。
「国代さん……」
「あまり動かん方がいい。絶対安静だ」
私の腕には点滴が刺さっていた。点滴の瓶から滴る透明な液体を見つめながら、かさついた声でぽつりと呟く。
「私は……助かったんですか?」
「危ない所だった。衰弱しきってたからな。医者によると、もう少しでも発見が遅れたら間に合わなかったらしい」
「どこで……私は?」
「切り立った崖のある峡谷だ。お前は崖に沿った道の途中で倒れていた」
「……」
横になったまま自分の手を眺めてみるが、紅緋の血の痕は残っていなかった。
そんな私を見つめながら、国代はベッド脇の小机に置かれていたスマホを手に取る。
「つい二、三日前、お前の持っていたこいつのGPSが察知されてな。警察の捜索隊が出されたんだ」
「私の……?」
「ああ。一年間も見つからなかったのに、突然居場所を知らせるように電源が入ったらしい。お前が見つかった渓谷の近くの、廃村になった場所だ」
「一年、間……?」
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