野晒し村

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 国代が何を言っているのか、分からなかった。  事態を察していない私を見て、国代は壁に貼られたカレンダーを指差す。月は同じだが、西暦が一年進んでいた。 「ちょ、ちょっと……待ってください」  慌てて体を起こす私を押し留めて、国代が言う。 「記憶が混乱してるのかもしれんが、お前と坂居が居なくなったのは一年前のことだ。ちょうど一年前、お前と坂居は林の中に車を残して行方不明になったんだよ」 「一年……前」 「ああ。車の中に大量の血痕が残されてたからな。事件性が高いってことで当時は近くの山の大規模な捜索が行われたんだがな。結局、お前も坂居も見つからなかった」 「じゃあ……坂居は?」  国代は首を横に振る。 「まだ見つかってない。残念だが」 「いえ……あの村、野指村に坂居の死体はあるはずです。あいつはそこで……」 「野指村……か」  国代は困ったように人指し指で頭を掻く。 「野指村は十年ほど前に廃村になってる。お前たちが失踪してから、もちろんその場所の捜索も行われた。だがもう誰も住んでいない所だからな。遺留品は何も見つからなかった」 「……そ、んな」 「お前の携帯が残されていたのは、神社の境内だ。確か……野指神社だったか。もちろんそこも今は廃墟だがな」 「……野指村が」  茫然とする私に、再び椅子に座り直した国代が言う。 「俺もさすがに、お前の出した企画書の村自体が廃村になってたとは思いもしなかったよ。でも確かにあの村、昔は周りの集落から『野晒し村』と呼ばれていたらしいな。何でも人柱の風習があったとかで」 「やはり……」 「野指村という名称も、その名残りだと言われてる。もちろん『野晒し村』ってのは、多少侮蔑的な意味も含んでるんだがな」 「じゃあ……」  何体もの死体が吊り下げられていた沢のことや、洞窟の中で自分の首を切った寛司の死体についても聞いてみたが、国代は同じように首を横に振るだけだった。 「俺もあの山の捜索に同行したんだが、滝のあった場所自体、今はほとんど干乾びて沢にも水は流れていなかった。お前の言う洞窟も、岩崩れで人が入れるような状態じゃなかった」 「……」  私は言葉を失う。
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