野晒し村

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   *  野指村は山間の寂れた農村だった。  過疎化がかなり進んでいるらしく、古民家が数軒ある以外に目新しい建物は見当たらなかった。 「ちょっと村の外観、撮っときますね」  雑草が生い茂る畦道(あぜみち)に車を停めると、車を降りた坂居がカメラを構え始める。  ボンネットの上に村の地図を広げて見渡してみるが、枯れ木が点在する風景ははるか昔から時間が止まっているかのようだった。 「楠木さん……あれ、何ですかね」  ファインダーから顔を上げた坂居が、山際の少し高台になった場所を指差す。そこには古びた社殿と朱色の鳥居が見えた。 「神社だろ。田舎にはどこだってある」 「いや、その向こう側。高い(やぐら)みたいなのが立ってる所……」  カメラの望遠レンズをズームした坂居が、思わず手を止める。 「な、何だよ……あれ」 「ちょっと見せてみろ」  坂居からカメラを取り上げ、ピントリングを合わせる。  ぼやけた視界から次第に焦点の合ったファインダーに見えてきたのは、神社の前に木材で組まれた櫓と、その天板から首を吊るされた……人間の姿だった。 「な……」  だらりとぶら下がったその体が、風に揺れてこちらの方に顔を向ける。カメラ越しにその死体と目が合った気がして、思わずカメラを持つ手の力が抜ける。 「ちょ、ちょっと楠木さん」  落としかけたカメラを、坂居が慌てて受け留める。 「死体……首吊りの」  ふらふらと車に寄り掛かる。ボンネットの上の地図が、山から吹き下ろす風に飛ばされたのにも気付かなかった。  再びファインダーを覗き込んで確認した坂居が、茫然とする私に言う。 「行ってみましょう。ここに居ても仕方ない」 「……あ、ああ」  促されるままに車に乗り込み、エンジンを掛ける。  激しく打ち鳴らす鼓動を抑えながらアクセルを踏み込んだ時、さっき村の近くで出会った少女の告げた「野晒し村」という言葉が、頭の片隅を過ぎった。
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