153人が本棚に入れています
本棚に追加
櫓に備え付けられた十メートルほどの木の梯子を、坂居が一段ずつゆっくりと上がっていく。
「気をつけて下さいね。落ちないように」
男がどこか暢気な口調で言う。
人形に手の届く距離まで梯子を上がると、坂居は少し躊躇しながらもその着物に手を掛ける。
「……」
強張った表情で見つめる私を見下ろし、坂居が大声で叫ぶ。
「人形です、楠木さん。良く出来てるけど」
「……そう、か」
安堵の息を吐いた後、私は男に話し掛ける。
「それにしても、驚きました。どうしてあんなことを?」
「ああ、これは魔除けみたいなものなんですよ。呪詛祓いの一種だと思って頂ければ」
「……『咒隠し』、というやつですか?」
そう告げた私を見て、男は意外そうな顔をする。
「ほう、よくご存知で。確かにこれは『咒隠し』から身を守るための祭祀です。失礼ですが、あなたがたはどういった……?」
雑誌の記者だと告げて名刺を渡すと、男は納得したように何度も頷きながら目を細める。
「それでは、せっかくなら私の家で少し話しませんか? この神社の奥が社務所を兼ねて、私の住居になっているんですが」
最初のコメントを投稿しよう!