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「じゃあ祭りの時には、さぞかし迫力のある写真が撮れそうだ」
縁側に立って櫓の方へとカメラを向ける坂居に、急須で湯のみにお茶を注ぎ足していた辰岡が告げる。
「祭りは……そうですね。ええ、今夜行われます。あなたがたもご覧になりますか?」
やや言い淀んだ口調が気になったが、坂居は嬉々とした表情で振り返る。
「お、ちょうど良かった。楠木さん、是非取材させてもらいましょうよ」
「そう……だな」
伺うように視線を送ると、辰岡は少し考え込む素振りをする。
「本来ならば祭りの時には、外の人間は村に入れないのが決まりごとになってるんですが……。しかしここまで来られたのを無碍に追い返すのも気が引けますし、あまり派手になさらないのであれば」
「もちろん大丈夫ですよ、ね、楠木さん」
カメラを擦りながら、坂居が同意を求めてくる。もし取材を断られたとしても、坂居の気質ならば村に忍び込んででも撮影するつもりだろう。
私は辰岡に礼を言う。
「神事だということは分かっていますし、皆さんのお邪魔はしません。撮影も許可を頂ける範囲で行いますので」
「ええ。それならば私の方から、長老たちには言っておきますので」
柔らかい笑みを浮かべて、辰岡が答える。
私はそれまで気になっていたことを、この機会に訊ねてみることにした。
「そういえば辰岡さん、この辺りに赤い着物を着た子供の居るご家庭はありますか? 十二、三歳くらいの、髪の長い女の子の」
「ああ、それはおそらく紅緒ですね」
「紅緒?」
「ええ、苗字は仁和と言って、村の外れに住んでいます。少しばかり変わった娘ですが、この村ではまあ……大切に扱われています」
どこか含みのある言い方で、辰岡は答える。
「ああ、じゃあさっき楠木さんが見たってのは、妖怪の類じゃなかったんですね。座敷童子とか」
横から口を挟んだ坂居が村に来る途中の話を聞かせると、辰岡は可笑しそうに笑う。
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