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雅は鋏を降ろした。
そして元いた石の上に戻って再び寝転び、
ローズマリーと鋏を重ねて胸に置くと、眠りに落ちる直前のような面持ちとなって、
『ふふっ』と笑った。
「鬘の言ったことは本当だ。
母は殺されたんだよ、もちろん戸籍上の僕のお父様にね。
だけど、そう仕向けたのは僕。
理由は身体が大きくなるにつれ、お母様の世界にいるのが苦しくなったから」
突然、雅は甲高い声を発した。
『雅お願い、大きくならないで』
と。
「お母様は細い腕で朝から夜まで、常に僕を抱いていた。
だから、僕の背が伸びたり体重が増えて抱けなくなる日が来るのを恐れていたんだ。
固形物を食べさせなかったのは、僕が大きくならないように苦心してたからだろうね。
満足に食事を食べられないのは辛くなかったけど、妙な液体を少しずつ飲まされるのは嫌だった。それよりも、」
『いいこと?
物に触れては駄目よ。怪我をしたら大変』
「辛かったのは、一切物に触れることができなかったことだ。
カーテンにもテーブルにも本にも花瓶にも」
『鬘、鬘!
外の気温を計ってちょうだい。湿度も紫外線もよ』
「庭に出られるのは暑くも寒くもなく、快晴でもなく雨や風のない日。
そんな日があったとしても僕が一人で歩くことはない。
季節がどう変わろうと葉一枚、花一輪だってこの指で確かめることはなかった。そして、」
『お部屋に戻りましょう。
お家にはお母様も雅もたくさんいるわ。大勢なら寂しくないわね』
「クロ、このセリフの意味も鬘から聞いているか?
、、、なんだ、聞いてないのか。
どの部屋にもお母様と僕をモデルにした球体人形がたくさんあったんだよ。
その中に二人紛れて一日を過ごす。
遊ぶわけじゃない、ただお母様だけが人形に話しかける。
そうしているうちに、僕はだんだんと呼吸できなくなって、自分まで人形になるような気がしたんだ」
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