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「さすが神野家の御曹司。
なかなかの人格をお持ちだ」
「そういうお前もだよ」
夏目が引き取った後、雅とクロは互いを見て笑った。
鋏を取り返した雅は、手近に咲くローズマリーに目を遣り、その紫を先端あたりで切り取った。
白い指がくるくると花弁を回すと、辺りに清々しいグリーンの香りが広がる。
「何故、私を庇ったのです?」
クロは微笑ましくも眉を顰め、独り面白そうな様子の主人を伺った。
「庇う? お前の何を庇うんだ?」
「数日前に初めてお会いした時、貴方は会話の途中から私が偽の教育係だということを見抜いておられた。
不法侵入者として突き出すなら今がチャンスだったのでは?」
「そうだな。
でもお前には何らかの目的があるんだろう?
ならば、このまま様子を見るのも面白いじゃないか」
鋏の先を黒スーツの胸に突き付けて笑い続ける雅は、精一杯背伸びをすると、手にある香りを移すようにしてクロの頬を包んだ。
「大企業を担うほどの知識や資質があるのに、こんなところで僕の情報収集に甘んじているなんて、、、勿体ない。
ああそうか、分かった。
お前にも『主』がいるんだね?
お祖父様のように、背くことのできない絶対の主が」
「、、、、」
「けどなクロ、お前は大実業家になるか、、、
そう、殺し屋になるのがいいんだ」
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