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雅がする母親の口真似は抑揚のない裏声で甲高く、機械音のようだった。
「球体人形に紛れる貴方も浮子様も、
それはそれは美しかったでしょうねぇ」
奇怪な口真似を見ても動じず、ただ感心するクロは、浮子と雅を模した人形が犇めいている部屋を想像し、いかにも俗世を知らない、浅はかな令嬢がしそうなことだと頷いた。
しかしながら、浮子の精神状態は疑うべきであっただろう。
また、その異様たる光景を見ても誰一人止めることも諌めることもしなかったのならば、当時の神野家では彼女の威光が相当に強かったとも推察した。
家長の喜一郎からして偏執的であるのだから当たり前なのだろうが。
「ある日、庭に一匹の子猫が潜り込んだんだ。
僕は夜、こっそりお父様の袖を引いて
『庭にくる子猫が欲しい』とねだった。
神野家から疎外されていたお父様は、とても嬉しそうだった。
僕に取り入れば、お祖父様から一目置かれるから。
だから、すぐにその猫を捕まえて、周りの反対を押し切って僕に猫を抱かせてくれた。
でも僕には目的があった。
何だったと思う?
わざと猫に引っ掻かれて悲鳴を上げること。
そしてその通りにしたんだ」
『ここ』と、手首から少し上を指差した雅は再び目を閉じる。
「お母様は僕より大きな声を部屋に響かせて目を吊り上げた。
『私の大切なお人形に何をするの』って。
でも僕は逆。
腕に滲む血を見て安心した。
『ああ、まだ人形にはなってない』って。
でも急がなければならないと思った。
その日から静かだった家の中が、お母様の叫声とお父様を罵る声で溢れるようになったから」
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