偽愛

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雅はクロを一瞥してから、側に来るよう手招きした。 「気狂いになってしまったお母様と、(そし)られ続けて鬱憤の溜まったお父様の熾烈な言い争いは芝居を観てるようで楽しかった。 それはお祖父様が二人の間に分け入って、お父様に『絶縁』を言い渡すまでのことだったけど。 欲は人を壊すね、クロ。 それまで僕の実父である以上、自分が見捨てられることは無い、いずれ神野の財産と地位、株の全てを得られると信じて疑わなかったお父様もまた狂ってしまったんだよ。 使用人二人を脅して、僕らを山中に連れ出させ、生きたまま埋める為の大きな穴を掘らせたんだ。 そうして、お母様を落とした。 お父様がお母様を落とした。 僕が、 『悪者は埋めてしまいなよ』 って言ったから。 ── 可哀想なお父様。 僕は怯える二人の使用人に、 『お前達を咎めないし、お祖父様から守ってもやる。お父様を落としたらね』と提案した。 鬘が何を聞かされ、その鬘からお前が何を聞いたかは知らないけど、お父様とお母様は同じ穴に落ち、生きたまま埋められて死んだんだよ。 使用人が土をかけ終えた後、その上を僕は一人で歩いた。 裸足になって、初めて土に触れた」 クロは雅が伸ばした手を取り、抱き上げると優しく背中を撫でた。 それは愛おしさでもなく憐れみでもなく、同じ匂いを放つ、希少で冷酷な同志を発見したという歓びと称賛からだった。 足を浮かせた雅は少しよじ登り、大地のようなクロの肩に頬を預けてから 疲れを癒すように『はぁ』と息をついた。 冷えた雅の、しかし初々しくも(かんば)しい吐息がクロの首に触れ、目頭を僅かに狭めさせる。 「お祖父様は全て知っている。 二人を殺めたのは僕なのに、責めることも問い質すこともなく、黙って全てを終わらせたんだよ」
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