偽愛

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夏目が隠れ家を訪れた翌日、 ─── 土砂崩れによって孤立していた明日人と茉瀬は、夏目の通報によって無事救出された。 怪我も体温の低下もなく帰宅した二人は、その翌日には早々、明日人の希望によって織倉家へと向かった。 「臨床医の経験からいって、双方準備なく対峙したところで、良い結果を得られる確率は低いし、そもそも話し合いにすら応じないかも知れないが、、、」 運転席に座る茉瀬は自身が持つ懸念を伝えた。 「良い結果を得られるとか、そういった期待はしてない。 家族として再生できるかどうかも微妙だし。 今はあの二人の変化と、俺のこと どう思ってんのかを確かめるだけでいい」 「優等生だな。 途中でキレたら喚いてもいいんだぞ、俺が収拾つけるから」 意味あり気に笑う茉瀬に、明日人も笑う。 「そうするわ。記念すべきスケープゴート脱却の日になるかも」 九死の危機を経、共に一生を得た二人の間には、それ以前に無かった精神的な絆や了解が芽生えていた。 明日人の兄、実玖人の矯正プログラムを受けるにあたっては、神野 喜一郎より実玖人含め、両親とも渡米を条件とされていたが、 「ご両親はちょうど事業引継ぎの為一時帰国してるそうだから、タイミングとしては早いが仕方ない」 茉瀬としても明日人の両親と一度面識を持っておきたいと思っていたところなので、この度の一時帰国をその機会にすることにした。 しかし ─── いざ到着し車を降りた二人は、すぐに家屋だけでなく門周りに対して明らかな違和感を覚えた。 先ず、明日人が手をかけた織倉家の門扉がワイヤーと南京錠で施錠されていた。 不審に思った茉瀬が一歩後ろに下がり ガレージに続くフェンスに目を遣ると、そこには『売家』の看板が留めてあり、 続いて黒光りする正方形のインターホンの脇に、織倉の表札が外されたと分かる窪みを見つけた。
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