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「間違いなくお前ん家だよな?」
門扉の向こうには実玖人か、或いは明日人の物であろう机や椅子が雨ざらしで出され、玄関脇の軒下には沢山の参考書に紛れ、校名の入った卒業アルバムらしい分厚い本が紐で括り積んであった。
そのどちらにも明らかに業者に向けた、
『処分』の貼り紙がある。
「、、、、渡米ついでに家を売却したってことか?
会長からは何も聞いてないが」
「ま、、、。
そういうことだよな。そういう、、、。
あ、思い出した。
そういや親父に『縁切る』って言われてたんだ、俺。
今の今まで忘れてたけど」
突然、
明日人は身を翻し、織倉家の前の坂道を下り始めた。
「どこいくんだよ、明日人」
途中から速足になった明日人との距離が空くと予想した茉瀬は、戻って車を発進させ、同じ速度で横に並ぶ。
「乗れ」
「、、、、」
怒りも露わな明日人はアスファルトを睨み、大股でまるで目的でもあるかのように進み立ち止まる気配はない。
「乗れって」
「── 捨てたんだよ。
、、、俺が先に捨てたんだ」
視線はそのままに、吐き捨てるように呟くと、やや伸びた真っ直ぐな黒髪を駿馬の鬣のように靡かせた。
「わかったから、とにかく、、、」
「期待なんか、ずっと前に捨てた。
何度も失望して家族でいることを諦めたんだ。
そうだ、俺が先に出て行ったんだよ、茉瀬。
あの家を捨てて、
あの家族を捨てて、
俺のが先に」
「明日人っ」
「そうできたのは、居場所を見つけたからっ、、、」
車を降りて追いかけ、腕を掴む茉瀬の
手を明日人は振り払った。
「一緒に生きようと、思った奴がいたからなんだよっ」
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