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昨年の六月頃、
神野開発グループの会長、神野喜一郎から連絡があった際、茉瀬 憂壬は、
『憂壬君、稀に見る美しい朧月をみつけたよ』と、確かに聞いた。
収集家で有名な彼の第一声はいつもこんな風であったから、その時は珍しい絵画か陶器でも見つけたのだろうと、
『ああ、そうですか』
などと軽く受け答えただけだった。
しかし今年の三月、改めてそれが『人』であり、更には『青年』であると知らされた際は、神野らしい酔狂だなと了解しながらも、やはり驚きを隠せなかった。
有形無形問わず、喜一郎のコレクションは稀少なものばかりで、また美に関してはその厳しい条件ゆえに数年に一個増えるか否かというくらい珍しいことを踏まえても、人間にまで及んだとなると、さすがに笑えない。
『朧月は好きでね。
しかし靄に隠されたままでは勿体ないと欲が出るほどの美男だよ』
と、嬉しそうに話す。
この人がわざわざそんな事を伝えるには何かがある、、、そう予感した。
案の定、それは新しい心理学の研究に携わる者への白羽の矢であった。
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