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皐月の爽やかに晴れ渡った空の下なら、鮮やかな緑の上を渡る薫風も感じられよう。だが、そろそろ水無月に近づこうとする頃である。少女が笑顔で眺めているのは、どちらかといえば人の気分を重くする風景であった。
郡上と呼ばれる奥美濃の地は、降るのか照るのかはっきりしない天気の下で、風に木々の葉を揺らす山々は不安げな呻き声を立てている。
「殿が御自ら御出馬とはね」
皮肉っぽい物言いとはうらはらに、轡を取る手が強張った。それでも、力の加減は弁えているのか、馬を怯えさせるようなことはない。
「しょうがないじゃない、上様の命令なんだから」
郡上の少女領主は、事もなげに答えた。
東常縁。
美濃篠脇城の主である。
遡れば、後鳥羽院が起こした承久の戦で先祖が功を上げたのが城の始まりである。東氏は下総で名を知られた千葉一族の出で、この戦で鎌倉幕府から下された郡上の地に移り住んだのだった。
初代が築き始めた城は、常縁の代になると攻めにくい土地を悠然と見下ろすようになっていた。城の西には長良川が控え、北から東にかけては人里が険しい山々の間に細々とある程度で、軍勢を引き連れてきてもこの地にはなかなか入り込めはしない。
さて、現代ではその人里がどうなっているか。
北から時計回りに見ていこう。
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