夏・10

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怒涛のセックスが終わった。裸のまま折り重なるようにしてぐったりしていたら、帰宅した母親に無遠慮に戸を開けられた。 「夕飯、唐揚げと親子丼どっちが……」 足音を聞いたキラが互いの体にさっと布団をかぶせたおかげで、裸を見られるのだけは免れた。しかし散乱した衣服や灯りのついていない部屋から、俺たちがしていたことを察するのは簡単だったろう。キラの母親の錯乱ぶりが脳裏を過った。 俺たちの姿を見た母親は、一言、 「……お赤飯ね」 と言うと、そっと戸を閉めた。すこしの間固まった後、俺たちは顔を見合わせ笑ってしまった。 「さすがやい子さん」 「初めてババァをすげぇと思った」 それからだらだらとじゃれあっているうちに夕食の匂いが漂ってきた。 「エビフライも揚げたんだけど、四本しかないからどっちが二本食べるかじゃんけんしなさい」 食卓を囲んだ俺たちは、向き合った体勢で拳を翳した。 この後起こることを、どこかで予感しながら。 (了)
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