春・10

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春・10

ふわりと体が宙に浮いたが、昨日由羅に殴られた時とは違った、心地よい浮遊感だった。手足がだらんと垂れる。ガクッと顎が上を向いて、前髪が後ろへ流れた。 薄く開けた目に映るのは、鼻をすするキラの横顔。 俺、今、キラに抱えられてる。首にしがみつきてぇ。 でも、眠気がひどすぎて体が動かなかった。俺はそっと布団に横たえられた。 「由羅」 キラの手が、俺の頬に触れる。親指で下瞼をなぞってくる。気持ちいい。華奢なくせに力強くて、骨ばってて、血管の浮き出た、その手。 俺の唇をなぞって、キラが言った。 「大好きだよ」 その時俺に灯ったものは、何だ。俺の中のどこかが、熱く濡れたような感覚がしたんだ。 何か言いたいような気がしたが、眠気に耐えられず、俺は意識を手放した。
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