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春・1
これで十回目のあいこだと言ったら、由羅は大いに笑った。
僕は同じ形で差し出されている二つの手をまじまじと見つめた。グー。僕たちはじゃんけんをしていた。
でも、僕にとって、由羅の手はただの「グー」ではなかった。その手は、同い年の僕よりも白く小さく、握った拳は僕の半分ほどしかなかった。紺色のパーカーから覗く手首は、ちょっと曲げれば簡単に折れてしまいそうだった。ぽこっと突き出た小指側の手首の骨が可愛かった。
その手は、僕の目には愛しさの集合体のように見えたのだ。
僕はその手をずっと見ていたいと思った。それこそ、年老いて皺しわになるまで。
「俺とキラってさ、」
後ろに反り返って笑っていた由羅が、僕の拳に拳をこつんとぶつけた。
「すげー昔、二人で一人の人間だったんじゃね!」
あーおかしい、ほんとおかしい、まじうける。
同じ意味の違う言葉を連呼しながら、由羅は笑い続けた。
二人で一人の人間。
僕の中に、由羅の言葉がすとんと落ちた。
あいこが十回続いたじゃんけん。
何のためにじゃんけんをしたのか、僕は思い出すことができない。
だけど、由羅の笑い声や、大きく開いた口から覗いた八重歯の白さ、拳の小ささ、手首の骨の可愛らしさ、その時僕たち二人を取り巻いていた空気感のようなものなら、今見たもののように思い出せる。
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