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何も言葉が出てこなかった。
僕は、一度たりとも彼女には、逢っていないし話してもいない。
彼女は、ひょっとしたら僕の事を知っていたのかな?
それで、毎日あの公園で、トロンボーンの演奏を、してくれていたのかな?
僕は、自宅のベランダから見える確かに彼女が、トロンボーンの演奏をしていたベンチを見つめていた。
「ありがとう……君のおかげで、僕は……」
月日が流れて、僕は、高校受験を終えて、中学校を卒業した。
卒業式の帰りに、僕は、あの公園に足を運んでみた。
ベンチには、まだ小学生くらいの女の子が、一人で座ってシャボン玉を吹いていた。
「きれいだねぇ!シャボン玉!」
女の子は、しばらく不思議そうに僕の顔を見上げてから、
「うん!」
元気な声で、そう答えた女の子は、満面の笑みで僕の方に向かってシャボン玉を吹いてくれた。
「ハハッ!凄いなっ!」
僕は、毎日夕方、ここで演奏されていたあの女の子のトロンボーンを、思い出していた。
彼女が、くれたもの……
それは、僕の人生を大きく変えてくれたのかも知れない。
女の子の吹くシャボン玉は、きれいに膨らんで、宙に舞っては、静かにはじける動作を、ずっと繰り返していた。
僕は、微笑みながら、その様子をじっと眺めていた。
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