第1章

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 僕の自宅の直ぐ近くに、結構大きな公園がある。でも、何故か?その公園は、人がほとんどいない事が多かった。僕が、中学二年生になって、学校に通うのが、とても嫌になって、自宅に引きこもるようになった頃、毎日、夕方になると、あの公園から、変な音が聴こえてくるようになった。 「何だよ……うるさいなぁ……」  最初は、その不快な音が、耳障りで仕方がなかった。  僕は、自宅のベランダから見える、あの公園から聴こえてくる音の正体を確かめようと思った。   「女の子……?トロンボーン?」  公園のベンチに座って、ツインテールに髪を束ねた、多分僕と同じくらいの歳の少女が、下手くそな演奏で、それでも一生懸命にトロンボーンを吹いていた。 「学校の部活動でやればいいのに……はた迷惑だなぁ……」  僕は、その子の演奏を、引きこもりを続けている以上は、毎日、決まった時間、だいたい夕方四時くらいから五時くらいまでの約一時間、聴きたくなくても聴かざるを得ない状況に置かれてしまった。  一週間、二週間、そして一ヶ月……僕は、名前も知らない彼女の演奏を聴き続けた。と言うよりも、勝手に耳に入ってきた。 「少しは、ましになったけど……やっぱり、下手くそだな……」  僕は、その頃には、彼女が練習しているトロンボーンの演奏を、まるで音楽評論家のように、評価し始めた。 「もう少し、音程が安定すると、良かろうに……でも、最初から比べれば、かなり進歩したなぁ……」  相変わらず自宅に引きこもっていた僕は、夢も希望も何もかも、失くしていたような精神状態だった。  だけど、最近の僕は、一つだけ大きな楽しみというか……希望があった。  あの女の子のトロンボーンの演奏を、毎日聴けることが、そして、その成長を実感できることが、僕にとっては、ささやかな幸せのような感覚だったんだ。 「おかしいな……今日は、聴こえてこない……」  数日後、毎日続いていた彼女のトロンボーンの演奏が、その日から、いつまで経っても聴こえてこなくなってしまった。  それから、一ヶ月、僕は、どうしても彼女の演奏を聴きたくて、数カ月ぶりに、恐る恐る自宅から外出した。ほんの、数十メートルの距離にあった、あの公園のベンチまで……  公園に着いた僕は、いつも彼女が演奏していたベンチに辿り着いた。 「やっぱり、いない……」 「ひょっとして、引っ越しちゃったのかな?」
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