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小さい頃、家族と出かけた近所の喫茶店で隣の席にいたおじさんが店員さんに怒鳴っていた。
おじさんが何を怒っているかわからなかったが、
店員さんのお姉さんが二人で何度も謝ってもずっと怒鳴り続けていた。
やがて店長さんが来るとおじさんと一緒にお店の奥に入っていき、しばらくしておじさんは帰って行った。
怒鳴られていたお姉さんの一人は今にも泣きそうな顔をして奥に入っていったが、
もう一人のお姉さんはおじさんが怖くて泣いていた私の目の前にしゃがみ、にっこり笑った。
「怖い思いさせてごめんね。これクッキーだよ、みんなには内緒ね。」
口元に人差し指を当てて花のようなお姉さんの笑顔に泣いていた私は気持ちが落ち着いた。
お姉さんはそのあと私の両親や周りの人に謝り、
テキパキ働き出した。
何事もなかったようにニコニコと微笑みつづけていた。
「あの子立派だね。」
「真琴ちゃんだよね、さすがねえ。」
周りの大人は小声でお姉さんを称賛していた。
小さかった私にとって大声で怒鳴るおじさんの存在は恐ろしい怪獣のようだった。
そんな人に長いこと怒鳴られても涙ひとつ見せることなく背筋を伸ばし続けるお姉さんはとてもかっこよかっ た。
そんなお姉さんの背中は小さい頃の私の憧れの存在になった。
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