寝られない男

というのはおれはエコノミークラスの座席で眠ると、決まって変な夢を見、そのあおりで突然、ものすごい大きな声で叫びだすからだ。

　例えばこんな夢だ。相撲取りより大きな男が隣の座席に座っている。座席をリクライニングさせ、大きないびきをかいて寝だした。そのうち、こちらに寝返りを打ってくる。が、大き過ぎるため、おれの上にものしかかってくる。息もできない圧迫感に、おれは叫びだす。実際には機内中に響き渡る大声で悪魔にでも出くわしたかのように、ギャー、ギャーとわめくらしい。するとキャビンアテンダントやパーサーがすぐさま何人もとんできて、なだめてくれる。だが、覚醒中のおれの叫び声は収まらない。ようやく目が覚めて我に返り、キャビンアテンダントやまわりの人に平謝りするというわけだ。

始末が悪いことに、その後も寝入ると、1，2時間後にはまたわめきはじめる。ひどい時はこれを1フライトに３回やった。さすがに機内中の人がまたかと怒って、飛行機を降りるまで、刺すような視線が痛かった。それからおれはエコノミーでは寝ないことに決めたのだ。