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「紋白(もんしろ)ちゃん?」
昼休み、学校の廊下で名前を呼ばれた木高(きだか)紋白が振り向いた先には、紋白と同学年と思われる女子が三人固まって立っていた。
どれも知らない顔だ。なぜ面識の無い人間が、苗字ならともかく自分を名前で呼んだのだろうと、紋白は訝し気に三人を見た。その三人は、紋白のその態度を気にもかけず、執拗に、まるで珍妙な生物を見るような視線で紋白を見ていた。
そして、呼びかけてきたのは彼女達の方なのに、そちらからは用件等、何も言ってこない。苛立ちつつも、せっかちな紋白の方から三人に尋ねることになった。
「なんか用ですか?」
「ほんと、男子みたい」
その答えは紋白の質問に対する答えでは無かった。それは紋白の外見に対しての感想だった。紋白はそんなこと、聞いていなかった。紋白が不快感を表す眉間の皺を一層深くするのに構わず、三人のうちの一人が言った。
「でも男子じゃないんだよ。もうきたんだって言ってたし」
紋白はその一言で、もうこの三人には一秒たりとも構っていたくないと、その場を後にした。
男子の様だと言われることは、いい。それは癖毛の髪をショートカットにした、いつもハーフパンツ姿の痩せぎすの紋白がしょっちゅう言われることだし、言われるだけでなく、素で男子と間違われることさえ少なくない。しかし、紋白はそれらについてはさして不快に思ったことはなかった。
だが、二言目。それは許せなかった。「何が」きたとは相手は言わなかったが、何の事を言っているのか、紋白にはすぐにわかった。
初潮のことだ。紋白はそれが厭で厭でしょうがないのだが、つい最近、初潮を迎えた。ただでさえ、自分の体が変化することに嫌悪感しか感じられないところに、他人に口を出してこられれば不愉快極まりない。
なぜ、その見ず知らずの女子が、紋白の個人的な体の事情を知っているのか。それについて紋白は、彼女たちの情報元に心当たりが一つしかなかった。
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