第3章

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「ご近所のお友達の奥さんが首を吊っていたのです。夫が家庭を顧みなくなったとかで、ここ数日。沈んだ顔をしていましたから、誘われやすかったのですね。」こうなると、一刻も早く樹を伐採しようということになった。「趣味で別荘をログハウスで建てるくらい、木を伐るのは熟練されていたご主人と友人達が伐り倒そうとされたのですが…チェーンソーの操作を誤って?気がつくとご主人は血まみれになって、自分の左手首を切り落とそうとされていました。斧を持ったお友達は、自分の足へ思い切り振り下ろされていました。幸い、二人とも手足は失わずに済みましたが、元通りには動ていないそうです。」樹が祟ったのかどうかは分からないと彼女は言った。自分達では手に負えないと判断した奥さんは或るお寺へ相談に行ったという。「話を聞いた住職様は、お家へやって来られて樹に向かうと、伐採はしない、寺の敷地へ植え替えるから安心するようにと約束をされました。そうして樹を掘り起こす作業の間はずっと読経を行っておられました。その甲斐あってか、樹は無事にお寺へ移されました。今も毎朝、お寺では樹に読経が捧げられています。」話を終えた彼女は、ミネラルウォーターを一気に飲み干した。その時、喉のあたりがよく見えたのだが、首に巻いたチョーカーだと最初思っていたのが、赤黒い痣だということに私は気づいた。紐が首を一周しているような形なので、アクセサリーと見誤ったのだ。見つめる程に痣は、ロープ痕のように見える。そんな痣がついた首を傾げている彼女はまるで…「何かついていまして?」私の視線に気づいた彼女が、傾いだ首を此方へ向けてきた。「あ、いえ、臨場感たっぷりとまるで貴女が見てきたように語られるので感心しました。」彼女は微笑んだ。「たしかに。わたし、見ておりましたから。」「貴女は、お話に出て来た奥さんとお知り合いで?」「お友達でした。わたし、夫との事で悩んでおりまして…。」再び微笑む彼女から私が逃げ出したくなった時だ。「さあ、それでは、最後のゲストのお話をお伺いしましょう。」幹事が促した。照明のせいだろうか、幹事だけでなく、皆の顔が黒い影に見える。歯だけが白い。そう言えば、私を招いた知人は誰だったのか。「これは私自身の体験談です。」右半分の前髪を伸ばしていた三十代見当の男は、語り始めた。
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