メイちゃん

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 始業式を終えるとまっすぐ家路に就いた。  先週から、わたしの心は深いエアポケットに落ちたきり、手の届かないところまで落下してしまったらしい。ずっと、心の埋め合わせを見つけられずにいた。乗っている電車がときおり大きく揺れると、風船みたいにゆらりと宙に浮かんでしまいそうになる。今のわたしは、どうしようもないくらい、空っぽだった。  メイがいなくなって以来、ずっとこんな調子だ。普通の家庭で飼われているペットに比べれば、丁重に弔ってあげられた方だと思う。でもそのせいで、メイがいないという事実から反動が生まれて、軽い放心状態になり、どこにいても居心地の悪さがあった。胸の奥がざわつくような感覚がして、感情の休まる場所を失くしてしまっていた。  家の玄関に辿り着くと、鞄から鍵を取り出して鍵穴に差し込む。両親は共働きで、弟も予備校に行っているので、家には誰もいない。 「ただいま」  掠れた声が出てしまう。今日はずっと、誰とも言葉を交わしていない。友人のなつみも心配してくれていたけれど、何も考えられなかった。いや、考えたくなかった。  薄暗い廊下を進み、階段を上がって二階の自室に入る。鞄を勉強机の脇に置いて、パソコンの電源を入れる。スタンドライトをつけて手元を明るくすると、パソコンの画面にイラストを描くソフトが立ち上がった。  わたしの趣味は絵を描くことだ。主に漫画を描いている。大学では漫研に所属し、雑誌を作ったりもしている。  でも、ここ最近はまともに漫画を描いていない。完結させるのにも苦労していて、結果的に出来上がった漫画は、どうにもしっくりこないものばかりだった。そんな時も傍にずっといてくれたのが、メイだった。メイがいなくなってから、すべてを丸く包み込んでしまうあの眼差しが、こんなにも愛おしいものだったのだと、改めて気付かされる自分がいた。
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