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いいよ、となつみからすぐに返信がくる。わたしは濡れたままの髪でベッドに横たわり、通話ボタンを押した。
「もしもしこはる? どうした」
スピーカーの向こうから、なつみの声が聞こえてくる。
わたしは、言葉の端々を区切りつつ、メイが亡くなってしまった悲しさを伝えた。言い間違えの起きない速度で、言葉の一つひとつを慎重に、まるでガラスでも扱うみたいに丁寧に紡いでいった。なつみもメイには何度か会っているから、どんな猫かは知っている。
なつみは一切口を挟まずに、ずっとわたしの言葉を黙って受け止めてくれていた。ある程度話し終えると、「そうだったんだね」と申し訳なさそうになつみは呟いた。そんな彼女に対して、反対にわたしの方が後ろめたさを感じてしまう。
「ごめんね、なつみ。話、わざわざ聞いてもらっちゃって」
「何言ってるの。大事な家族に何かあったら、そりゃ誰だって辛いよ」
家族、という言葉が頭の中を小刻みに揺らしながら響いた。しばらく、その響きを忘れないように、わたしは家族という言葉を反芻する。束の間、そのことに神経を集中させていたせいで、考えもなしに口走ってしまった。
「メイちゃんがもし幽霊になって出てきたとしたら、どう思う?」
一瞬、時間の進む速度がとても遅く感じられた。そのわずかな間、呼吸もまともに機能していなかった。指先の動かし方や瞬きの仕方も忘れて、まるで背中とベッドが同化してしまいそうなほどに全身が硬直する。わたし自身、何が起きたのかさっぱり分からず、馬鹿なことを言ってしまったと気付いた時には遅かった。
えっと、となつみが言葉を詰まらせる。
我に返って取り乱しながらも謝ろうとする。すると、そんなわたしを迎え入れるかのように、なつみが明るい声で言った。
「よっぽどこはるのことが心配だったんだよ。それって、愛されてる証拠じゃん」
その溌剌とした言葉に、思わず面食らってしまった。
次の言葉が思いつかないでいると、傍にメイがやってきた。触ることは出来なくても、以前と変わらないまん丸とした図体が、視界の端を横切る。ここが私の定位置、とでも言わんばかりに枕元で丸く寝そべった。
その光景を見ると、自分が悩んでいることが何だか急に馬鹿々々しくなり、考えるのをやめた。そして、なつみに言った。
「そうだったら、わたしも嬉しいな」
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