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縁側の隅で寝転び、俺は中途半端に手入れされた庭に咲く秋桜を眺めていた。
時折ぴゅうと吹く風がそいつらを揺らす度に、勝手に目が追っちまう。思わずジャブを繰り出そうと飛び出す手を苦々しく引っ込めていたりしていたんだが、そんなことにも飽きてきた。番をさぼっているわけじゃねえ。毎度ながら暇なのよ。
福之助は何をしているんだ。客の依頼があったとか言っていたな。
大欠伸を一つして、のそりと立ち上がる。居間のちゃぶ台を潜り抜け廊下に出ると、俺は招き猫がわんさと並ぶ店舗へ向かった。
「はて、どうしたものか。困りましたねえ」
珍しく机にかじりつき、何やら唸ってやがる。さては依頼の件で悩んでるな。
「おい、福之助よ。そんなに難しい依頼なのか?」
「ああ、十三郎さん。いやね、他にない変わった招き猫をご所望でして」
「ほう」
机に置かれた紙と筆。墨で描かれた招き猫達の右上にはバツ印がついている。
「変わった猫といってもねえ」
渋い枯茶色の湯呑みを持ち上げて独りごちた。
この男、福之助。歳の頃は働き盛り、人相は雌が好みそうな優男だが、とにかくジジくさいアナログ人間ときてる。洒落た湯呑みも便利な家電もありゃしねえ。
湯呑みを覗いて茶が無いと知るや、ゆるりと立ち上がる。台所に行くのだろう、椅子に掛けてある若草色の羽織に袖を通した時、カラリと店の引き戸が開いた。
「邪魔するぜ」
威勢の良い声にやっとの客かと振り向けば、そこに居たのは茶と黒の虎模様の雉猫だった。
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