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「あんたが俺達と喋れるって噂の福之助さんかい?」
「ええ、そうです」
「へえ! なるほど本当だ」
雉猫は頷きながら、ちらと横目で机を見やり、ひょいと飛び乗ると手を差し出した。
「俺は家猫の寅次。今日は相談があって寄らせてもらった。よろしく頼む」
「やあ、そうでしたか。寅次さん、お役に立てれば幸いです。ちょうどお茶を淹れ直すところで。さあさ、どうぞ奥へ」
寅次は縁側に通されると、落ち着いた様子で腰を据えた。耳こそ福之助が茶の用意をする音に反応しているが、その視線は泳ぐこともなく、一見悩みを抱えている猫には見えねえ。
五分も経った頃。盆に茶菓子と湯呑みを乗せた福之助が、ゆるい笑みを浮かべて縁側へと戻ってきた。
「岐阜の老舗だそうで『すや』の栗きんとんです」
「おっ、悪いな福之助さん。これは美味そうだ」
紀州塗りの黒い半月盆に、茶巾で絞った栗の形の菓子が二つ。まずは、熱々のほうじ茶を一口。ふうふうずずずと啜ってみれば、香ばしさにほっと一息。栗きんとんは口の中でほろりと崩れる柔らかさ。
「美味い!栗の実そのものみたいだな。甘さ控え目で俺好みだぜ」
「それはよかった」
福之助よ。そろそろ話を聞こうじゃねえか。
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