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古い壁掛け時計の秒針がカチカチとやけに大きく響きやがる。やがて寅次は重い口を開いた。
「無理だ。大福を嫌いになんかなれねえよ」
噛みしめるように首を振って答える寅次の背を福之助が撫でる。
「理解されないのは辛いことです。でもあなたはきっと真っ直ぐな性格だ。自分に嘘をつくのはもっと辛いんじゃありませんか?」
「ああ。仲間に言い訳する度に、ずっとここが痛むんだ」
ぎゅうと胸の辺りに肉球を押しつけた。
「あなたが自分に正直に生きていくのなら、僕はこれから増えていく理解者の一人です。苦しくなったらいつでもおいでなさい」
「福之助さん。そうか、俺は答えが欲しかったんじゃない。誰かに聞いて欲しかったんだな。ありがとうよ、背中押してくれて」
そうして寅次は、大福の腹がぽてぽてで可愛いだの、向日葵の種を何個頬袋に詰め込んだだのと惚気話に大輪咲かせて招き堂を後にしやがった。
いいじゃねえか。幸せを捨てることはねえ。男ならその愛を認めさせてやれ。
数日後。
例の依頼品がやっとこ仕上がった。雉猫が頭に白い大福みてえなぽってり鼠を乗せた風変わりな招き猫よ。依頼品を見た客人はたいそう喜んでいたって話だ。
ー完ー
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