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男が通う電車の中はたとえ冬であろうといつも熱気で満たされている。
たとえそれが終電間際でも、だ。
そのような電車には老若男女問わずさまざまな人が乗っているが、皆決まって少しシワができたスーツを来て、どこかやつれた顔をしている。
人の波に身を任せ、器用に眠るこの若い男もその一人である。
目には青黒く深い隈ができ、肩は本来の位置からさらに沈み込んでいた。
男の目的の駅に着くと皆もそうだったのか、人が雪崩のように降りて行く。
男は流れに身を任せ、改札口まで歩く。
皆改札で詰まるのを知っているのでどことなく早足になるが、男は最早それすら行う気力はない。
集団から遅れて改札口を出ると、そこにはいつも通りのギラギラとした酒臭い町があった。
男ははたから見れば、少し酔っているかのような足つきで、大通りを外れた裏通りを歩く。
裏通りは表通りとは違い、飯屋やコンビニなどはなく、風俗や居酒屋などが立ち並んでいる。
そんな道を歩いていると条例で禁止されている客引きの女や男に声をかけられるが、男は黙って通り抜ける。外国人が地図を持って何か喋っていたが、それでもなお黙って通り抜けた。
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