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交差点に差し掛かった時、ふと男は大通り通りへと目をやった。ひらけた場所にあるスクランブル交差点には、こんな時間だと言うのに青信号を待つ人々がおり、いくばかの人がビルに付けられた大きな液晶テレビをぼんやりと眺めていた。内容はとある政治家が不透明な資金運用を行っていたと言うことだった。
そんな中大音量で音楽を流しながら一台の車が赤信号を通り抜けていった。
再び男は歩き出した。
裏通りを抜けるとそこには我が物顔のように広がる公園があった。
この公園を避けようとすると、裏通りから男の家まで行くのに三十分はかかる。入社したての頃ならそれで良かったが、今ではそこまでする体力は無く、自然と公園を横切るというのが日課になっていた。
道なりに進むとダンボールの塊が林の中に見えた。男は慣れたようで気にも止めずそのまま道を進んでいく。
するといつもは街灯が無く暗い花壇の近く。少し低い位置に明かりが見えた。
男は少し気味が悪いと思いながらも、道を変えるには少し疲れすぎており、そのままいつもの帰り道を進んで行く。
明かりに近づくと、そこには、天井からはランタンが一つかけられ、その横には『どれでも一つ百二十円』と手書きで書かれた看板がかけられた、人一人入るか入らないかぐらいの木製の小屋が建っていた。
男は少し気になり、横目でチラリと中を見ると、中は薄暗く、ただ一つ学校などでよく見るような木できた机がポツンと一つ置かれており、その上に笛、メガネ、杖など色々なものが置かれていた。
そしてその机の向こう側に一人の老婆がいた。
男はそれらを見た途端なぜか、なぜかこのメガネが欲しいと思った。
男は小屋に近づき老婆に
「メガネを一つくれ」
と言い財布から百二十円取り出すと机の上に置いた。
老婆は机の下を何やら漁ると、机の上のメガネと瓜二つのものを取り出した。
そして
「このメガネは子どもメガネ。このメガネはあなたを選んだ。きっと役にたつでしょう」
そう言うと、老婆はメガネを男に差し出す。
男は頭の中で首を傾げたが、取り敢えずメガネをかけて見た。
すると肩の重りが消え、体が軽くなった。
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