1:日常が砕けた

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 大雨にも雪にも弱い東京という土地柄を考えると、そういう範囲内に信頼できる男がいてくれるのは心強い。いざというときには泊めて貰うこともできるなと咄嗟に判断して、竹内はにんまりと笑った。  学生時代、自宅から通学していた竹内は遅くなって帰宅が面倒になるたびに、塩瀬の下宿マンションに転がり込んだものだった。マイ歯ブラシも置いていたくらいである。 「先に言っとくけど、もう学生じゃないんだからな? そう簡単に泊まれると思うなよ?」 「固いこと言うなよ。俺とお前の仲じゃないか」 「パワハラだぞ、パワハラ」 「引っ越し祝いに昼飯、奢ってやるからさ」  気心の知れた相手と下らないやりとりをすることの癒やし効果は絶大だ。竹内は胸の奥から息を吐いて、親友を見た。 「そういえばお前、煙草どうした」 「まだがんばってるよ。禁煙中だ。お前は?」 「まぁ、ぼちぼち」  『仮にも《健康産業》の一翼である製薬企業に勤めるなら、健康作りは第一の課題と考えなくてはならない。皆、第一歩として禁煙を』と、言い出したのは事業部長だった。いよいよ社長の椅子を狙い始めた事業部長の声かけに、渋々と皆がならっている。  サラリーマン生活、長いものに巻かれておいたほうがいい状況は多々あることで、煙草を吸うかどうかという程度の問題なら波風を立てないルートを選択すればいい。大体、自宅で吸う分にはばれないからだ。     
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