3人が本棚に入れています
本棚に追加
「最近は全面禁煙の店が多いからな。特にこのあたりはランチタイムはほとんど煙草は吸えないんだよ」
そう言って出たビルの外は真っ昼間のまぶしさで、秋の入り口にしては暑かった。
上着を置いてくれば良かったと軽く後悔しつつ、横断歩道に立つ。並んだ塩瀬がうんざりした声を出した。
「いつまでも暑いよなぁ」
「まったくだな。暑さ寒さも彼岸までじゃなかったのかって言いたいな」
「お前。相変わらず古いこと言うな」
学生時代から何度も言われたからかい文句に、竹内は鼻で笑った。
「そろそろ年のほうが追いついて来ただろ。俺たちだって本厄だぞ」
思わずそんなフレーズが出てきたのは、人生の延長戦云々などということを考えていたからだろうか。とりあえず、重い意味を持たせたつもりはなかった。
「……お前とのつき合いも長くなったなぁ。できればこのまま」
青に変わった横断歩道を渡りながら、塩瀬が言葉を切った。
その間が不思議で、竹内は思わず古い友人の顔を見た。
はっとしたように瞬きをして、塩瀬も竹内を見た。
「定年までいきたいもんだがなぁ」
塩瀬が左側の頬をひっぱりあげる笑みを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!