1:日常が砕けた

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「最近は全面禁煙の店が多いからな。特にこのあたりはランチタイムはほとんど煙草は吸えないんだよ」  そう言って出たビルの外は真っ昼間のまぶしさで、秋の入り口にしては暑かった。  上着を置いてくれば良かったと軽く後悔しつつ、横断歩道に立つ。並んだ塩瀬がうんざりした声を出した。 「いつまでも暑いよなぁ」 「まったくだな。暑さ寒さも彼岸までじゃなかったのかって言いたいな」 「お前。相変わらず古いこと言うな」  学生時代から何度も言われたからかい文句に、竹内は鼻で笑った。 「そろそろ年のほうが追いついて来ただろ。俺たちだって本厄だぞ」  思わずそんなフレーズが出てきたのは、人生の延長戦云々などということを考えていたからだろうか。とりあえず、重い意味を持たせたつもりはなかった。 「……お前とのつき合いも長くなったなぁ。できればこのまま」  青に変わった横断歩道を渡りながら、塩瀬が言葉を切った。  その間が不思議で、竹内は思わず古い友人の顔を見た。  はっとしたように瞬きをして、塩瀬も竹内を見た。 「定年までいきたいもんだがなぁ」  塩瀬が左側の頬をひっぱりあげる笑みを浮かべた。     
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