1:日常が砕けた

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 大学の時に塩瀬が真剣に開発したクール&ニヒルな男の笑顔、少年風味だ。二十歳そこそこの男の考えることはどうやったら女の子にモテるかばかりで、かっこいい笑い方だの歩き方だのを一生懸命に研究したものだった。 「ああ、そうだな」  感傷的なことばかり思い出すのは、井出との面談を引き摺っているからかもしれない。そう思って、竹内は強めに頷いた。 「で、何食わしてくれんの?」  塩瀬が言った。 「ラーメン」 「お前、ラーメン好きだよなぁ」  少し時間をずらして出てきてはいるが、東京駅近辺の昼時は混雑するのだ。待たずに食べられてそこそこ旨い店は限られている。  近況や下らない昔話をしながら角を曲がると、広大な東京駅の端だけがちらりと見えた。  目的の店は地下街にある。東京駅の地下街は大阪や名古屋に比べると規模はやや小さいが、色んな店が揃っていて便利だ。  と。その時。  前触れもなしに塩瀬が立ち止まった。 「どうかしたか?」  遅れて立ち止まる。  歩道の真ん中で突っ立った塩瀬を、少なくない通行人が怪訝そうに横目に見ていく。 「……やっぱり来ちまったか」  何が来たんだ、という呼びかけは最後まで言うことができなかった。     
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