1:日常が砕けた

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 突然、真下から突き上げられるような大きな揺れがきたのだ。悲鳴があがり、車のクラクションが鳴り響いた。会社が入っているテナントビルの正面にある横断歩道上で、左折しようとしていたタクシーが横転する。引き込まれるように、何台かがそこに突っ込んだ。  けたたましいクラクション、悲鳴、サイレン。  東京に暮らしている者なら誰でも、直下型大地震のことは頭の隅においている。それに竹内は1995年の神戸震災の経験者だ。すぐにその、大規模地震が来たのだと思った。  竹内は咄嗟に手を地面につき、体を低くした。  舗装されている地面が波打つように揺れている。近くにあった置き看板がひっくり返って、プラスティック製の表面が砕け散った。丁度、店の中から掛けだしてきた男の足に当たったが、パニックになっていたのだろう。ズボンの裾が破れたのにも構わずに駅の方に向かって走っていった。 「塩瀬っ! 伏せろっ!」  塩瀬は、揺れる直前と同じ場所で突っ立ったまま、空を見上げていた。  竹内も膝を突き、さらに視線をあげて塩瀬の視線の先を見た。  黒い穴が染みのように空に浮き上がっていた。 「……な、んだ、あれは」  昔観たSF映画を思い出すような黒い穴の直径がどのくらいか、咄嗟に目算はできない。ただ、とんでもなく大きいことは間違いない。黒い穴は見る間に広がって、空の半分を覆い尽くすほどになった。  まるでブラックホールだ。     
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