1:日常が砕けた

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 穴はすべてのものを飲み込もうとするように、ぱかんと口を開いている。  いや、逆だ。  何故か、不意に竹内は理解した。 「溢れて、くる、んだ」  無意識に呻いた声に自分で驚く暇もなく、地面が激しく波打った。  遠くで喚いているサイレンに爆発音が重なった。また大きな悲鳴があがる。 「塩瀬っ!」  竹内は大声を振り絞った。 「始まっちまったようだな……」  塩瀬は周囲の騒ぎに影響を受けていない様子で空を見上げたまま、低く、少し悲しげに呟いた。  何が来たのだ。  どういうことなんだ。  非常事態だというのに、頭の中が疑問符で一杯になった。ただ、それを言葉にする余裕はなかった。  空に浮かんだ黒が滲み、滴が滴り落ちたのだ。  重力に引かれて撓んだ滴は、竹内と塩瀬の目の前、いくつもの車が立ち往生している道路上に落ちるなり、黒い表面を波打たせた。  子供の頃、道路工事の現場でみたコールタールの塊のような、薄い膜を張った滴が蠢いて、すぐ側に止まっていた白いライトバンを包み込んで取り込んだ。  竹内は声も出せなかった。息も止めていたかもしれない。  黒い穴からいくつもの滴が落ちてくる。  ぼたぼたと、振り始めの夕立のようなリズムで黒が落ちてくる。     
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