1:日常が砕けた

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1:日常が砕けた

 昔、竹内陽介が大学生だった頃、41歳寿命説というのが流行ったことがあった。その説によれば、竹内の人生は最早、延長戦に入ったということになるのだろうか。  21世紀になっても恐怖の大王は空から現れず、隕石の雨も第三次世界大戦も起きなかった。あっという間に2000年も10年以上過ぎて、ノストラダムスという名前を聞くこともなくなった。  41歳寿命説もそんなものの仲間だったのかなあ等と考えながら、竹内は深刻な顔で語る部下を見つめていた。と、いっても睨み付けるのではない。話し続けている相手の鼻のあたりに緩く焦点をあわせるのがコツだ。  井出翔は一昨年の新卒で、四ヶ月ほど前に竹内のチームに配属されてきたばかりの若手社員だ。一年足らずのMR生活に耐えられなかった井出には、製品プロモーションの仕事は過酷だったかもしれないとは思う。だが、本人の希望を受けての人事だった。     
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