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「自分がストレス耐性の低い使えないヤツだってことはわかってるんです。慰めないでください」
「そんなことはないよ。慣れない環境でいきなり実力を発揮できるようなヤツはいないって」
竹内は首を横に振った。
年次は随分と違っているが、井出は竹内と同じ大学の出身で、入社前の面接なんかではぶっちぎりの高評価を取っていた。期待の新人MRとして配属されたチームでも当初は上手くやっていたと聞いている。
つまづいたのは、認定試験のせいだ。
製薬業界ではMRの情報提供能力を担保するために認定資格制度を持っている。どこのメーカーでも新卒採用のMRは半年以上の研修を受けた後、12月に実施されるその認定試験を受けさせるのだ。業界資格であるから、資格そのものの持つ効力はほとんどない。ただ、なければ困るものでもある。
希に見るほど優秀だと言われていた井出は、その認定試験に落ちた。そこからすっかり自信と気力を失ってしまったらしい。
いわゆるところの優等生が陥りやすい落とし穴というやつである。
「……ほんま、ですか……?」
少し気が緩んだのだろうか。井出が緩く、関西弁になった。
全国区で渡り歩くのが前提のMR職には標準語は隠れた必須技能である。
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