1:日常が砕けた

4/22
前へ
/23ページ
次へ
 大阪に本社があっても、関西弁バリバリでは印象が悪くなってしまう地域があるからだ。関西生まれの竹内としてはいささか納得がいかないこともないではないが、会社の方針であれば受け入れるしかない。 「だから無理はせず、ドクターの診断を受けてくれないか」  メンタルヘルスに問題のある社員は会社指定の産業医の診察を受け、場合によってはカウンセリングも受けさせることになっている。状況次第では即時休職もありだ。厚生労働省の管轄下にある製薬企業はこういう方面での福利厚生はしっかりしている。  業界的には、監督省庁へのちょっとしたポイント稼ぎのようなものなのだろうが、恩恵を受けられるならしっかり受け取ったほうがいいに決まっている。 「無理をしたっていいことはない。きみはまだ二十代だ。先は長いんだし、焦ることはないよ。大丈夫」  請け合ってやると、井出が泣きそうな顔を隠すように俯いた。  MRから現場リーダー、係長、課長とキャリアアップしてきた竹内であるから、メンタルヘルスを悪化させた部下も何人も見てきた。抑鬱状態になるのは別に特別甘えているヤツということはない。  自信家で実力もある完璧主義者のほうが危ないのではないかというのが個人の感想だ。  竹内は大きく頷いて、井出のまだ線の細い肩を軽く叩いてやった。 「今日はどうする。仕事はできそうか?」 「……すみません、帰ってもいいですか」     
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加