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昔からこの人はそうだ、いつも唐突にすごいことを言い出す。
小学六年生の夏
国際ピアノコンクールで、栄誉ある賞を受賞し、東京にある有名な音楽学校への入学が決まっていたにも関わらず、地元の中高一貫の進学校に入るからと、あっさりそれを辞退した。
医学部受験を目前に控えた高三の冬休み
突然、弁護士を目指すからと、志望を法学部に変更すると言い出して、周りを驚かせた。
一歳にならない息子を連れて離婚すると言い出した時もそうだった。
だから、今日呼び出された時だって、また何か言い出すんだろうなと思ってはいた。
思ってはいたのだが、想像を遥かに超えるその言葉に、俺はついて行くことが出来ずにいた。
「進行乳がんで、皮膚やリンパにまでガンが広がっているの。抗がん剤の治療をして、それが効いて小さくなれば手術が出来るかもしれないらしいわ」
「手術が出来れば、予後も変わるんだろ?」
他人事のように淡々と説明する姉に、食い気味にそう尋ねれば、「えぇ、そうね」と、冷静に返事をする。
思わず前のめりになっていた体を、ゆっくりと元に戻した。
「父さんや、母さんには?」
「もちろん話したわよ。先生からの説明にも同席してもらった」
「で、なんて?」
「おじさん達にも相談してくれたみたいだけど、今話した方法をやるしかないだろうって」
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