7月29日

2/8
181人が本棚に入れています
本棚に追加
/144ページ
玄関を開けると、直ぐに蒼が走って来た。 「はるー」 俺の名前を呼びながら駆け寄って来る蒼が、本当に可愛らしくて、「ただいま」と声を掛ける。しかし、どうやら俺の帰りを待っていたという訳ではなく、蒼はおかえりの返事もせずに、俺の手を取ると直ぐにリビングへ引っ張って行く。 「蒼、どうした?」と聞いても答えてくれず、真っ直ぐに前を向いて進んで行く。 リビングに入ると直ぐに、テレビの前に敷いてあるラグいっぱいに作られたプラレールが目に入る。 駅やトンネルもあって、立派な鉄橋も作られている。そこを、ドクターイエローとはやぶさの二台の新幹線が、颯爽と走っていた。 「すごいなー!」 お世辞ではなく、本当にそう思った。 「かっこいい?」 自慢気に聞いてくる蒼に、「うん、かっこいい」と答える。 「ほくが、つくったの」 またもや自慢気に言ってくる蒼に、「本当か?すごいな!」と大袈裟に驚いて、頭を撫でてやると、ニッコリと満足そうに微笑んだ。 きっと、奈緒が手伝ってやったんだろうけど、それでもこの出来栄えは凄いと感心していた。 「蒼くん、一人で全部作ったのよ」 背後から声がして振り向くと、奈緒がキッチンからこちらに向かって歩いて来ていた。 「私は、何にも手伝ってないの。ね、蒼くん?」 「うん」と大きく頷くと、「ぜーんぶ、つくったよ」と言って、蒼は胸を張る。誇らし気なその態度が微笑ましい。 「帰ってくるなり、すごく集中して作ってたから、私は手を出さずにご飯の支度してたの。ハルに似たのかな?特に橋のところは、気合い入れて作ったみたい。高さが合わなくて、何度も作り直してたけど、最後までやり遂げたんだよ」 再び夢中で遊び始めた蒼に視線を送りながら、奈緒はそんなことを伝えて来る。 「そう……」 自然と俺もそう返す事が出来た。 家に帰り着くまでウダウダ考えていた答えを、奈緒が教えてくれた。 こんな感じでいいんだな…妙に納得出来た。
/144ページ

最初のコメントを投稿しよう!