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部長に仕事の事を相談して、急いで帰る。
マンションに着くと、蒼がこの前のように泣き疲れて寝てたらいけないと思い、インターフォンは鳴らさずに、ドアを開けた。
シーンと静まり返った部屋の中。
「ただいま」と、小さな声で言うが返事はなかった。
玄関に、蒼と奈緒の靴はあるから帰って来てるはずだ。
物音を立てないように、ゆっくりと部屋の中へと進んでいく。
リビングへと続くドアを開け、もう一度「ただいま」と小さな声で言いながら辺りを見回すが、蒼も奈緒もいなかった。
少しの間があって、人の気配を感じたのでそちらを見ると、蒼の部屋から奈緒が出てきた。
「おかえり」
その場で立ち止まって、小さな声でそう言う奈緒に、「ただいま」と俺もまた小さな声で返事をした。
「泣き疲れて寝ちゃった」
微かな笑みを浮かべてはいるものの、奈緒の顔は明らかに疲れていた。
俺も、蒼の部屋の前まで行き、中を覗き込むと、ベッドに横たわり寝息を立てている蒼が見えた。
この前の様に、泣いてる蒼をずっと抱きながら歩き回ってくれたのかと思うと、申し訳なさでいっぱいになる。
「ごめんな、大変だったろう?」
そんな俺の言葉に、奈緒はゆっくりと首を横に振った。
「蒼くん、今日は香織さんの前で泣けたから」
穏やかな口調で、何かを確認するようにそう言った奈緒。
「我慢せずに、ちゃんと泣けたから」
もう一度繰り返すようにそう言って、よかったという代わりに、口角を上げた表情は、切なそうでもあった。
その言葉と表情が、ずっしりと重量を持って心の中に届いた。
「そう」
深く頷いて、それを受け止める。
「うん」
今度は、奈緒が頷いた。
その短い返事が、じーんと心に響いた。
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