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「悠人と話したの?」
不意に聞こえてきた自分の名前に驚き、その場に佇む。
「もういいかなと思って……」
「…………それでいいの、本当に?」
「…………」
「この前の検査では、問題なかったんでしょう?先生から妊娠の許可も下りたのに?」
「……もう、悠人の中では過ぎたことなのに、……掘り起こして迷惑かけたくない」
「…………」
「それに……、5年前にあんな嘘ついて傷付けたのに……、いまさら……」
パタパタパタパタと、駆け寄ってくる足音に、二人の会話が止まる。
足音の主である蒼は、病室の前に突っ立っている俺の横で一旦止まると、不思議そうに俺の顔を見上げて「なにしてるの?」と声を掛けてきた。
そして、カーテンを勢いよく開けて、「ママー」と病室へ入って行った。
開かれたカーテンの向こうから、目を見開いた奈緒が俺を見つめている。
「なおちゃん、きてたの?」と、蒼が問いかけるが、それに返事も出来ないほどの驚きと動揺を隠せずにいた。
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