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7月22日
「余命宣告を受けたの……、私」
はっ?
いきなり何を言ってるんだろうか、この人は……
目の前に座る女性を、じっと見つめる。
日も傾き傾きかけたというのに、うんざりするような暑さの中、どうしても話したいことがあると呼び出された。
終わっていない仕事を残し職場を出て、急いでやって来たのは古びた喫茶店。
大きな窓から夕日が差し込み、テーブルの上に、コップの透けた長い影を落とす。
急いだせいでかいた汗は、効きすぎた空調ですっかりひいていたが、冷房のせいだけではない何かが、体を冷やし始める。
「一年…」
窓の外を見つめながらそう言って、こちらを向いたその表情は凛としていて、艶やかな黒い髪と同じ色をした瞳は、強い意志を表すようにぶれることなく、真っ直ぐこちらを見つめてくる。
相反するように、一年という具体的な数字が現実味がない俺に、そうじゃないことを伝えて来て、動揺を隠せない。
カラリと、グラスの中で重なりあっていた氷が滑り落ち、音を立てた。
その音がやけに大きく俺の耳に響いてくる。
「このまま何もしなければ、一年だって」
走る路面電車
電停で待つ人々
その手前を行き交う学生達
窓越しに見えるオレンジ色に照らされた街が、遠くに感じる。
何を言ってるんだろう、この人は…
頭の中に思い浮かぶのはその言葉だけだった。
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