7月27日

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それは突然の事だった。 さっきまで、ニコニコと話をしていた蒼が、家に帰り玄関の扉が閉まった瞬間、号泣し始めたのだ。 いきなり、「ママー、ママー」と泣き出す蒼を抱っこしようとするが、蒼は嫌がり、「ママー、ママがいい」と泣き噦る。 その姿に、胸を痛ませながらも、どうする事も出来ず立ち尽くしたままの自分がもどかしかった。 そんな様子を黙って見ていた奈緒は、ゆっくりと蒼に近づき、「お母さん居なくて淋しよね、蒼くん我慢しなくていいんだよ」と声を掛ける。 しゃがみ込み、蒼と同じ高さまで視線を落とした奈緒は、左右の手でそれぞれの目を覆って泣いている蒼の頭に手を伸ばす。 その頭を優しく撫でながら、「泣いていいんだよ」と、繰り返すように言った。 えーんと、泣き声を高くした蒼に、「おいで」と柔らかな声をかけ、両手を広げる奈緒。その胸に、蒼は抱きついた。 奈緒は、蒼を抱きかかえると、「お母さんも、蒼くんがいなくて淋しいんだよ。だから、早く帰って来れるように、今頑張ってる。淋しいのは皆んな一緒だから、我慢しなくていいんだよ」と蒼に向かって話しかける。 そんな二人の姿を見ていて、やっぱり俺じゃ無理なんだなと突きつけられているようだった。
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