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7月31日
水曜日
仕事が終わる頃に姉からLINEでメッセージが届いた。
『ごめん、退院が延期になりました』
姉らしくない一言だけの短い文を見て、何かあったのかと不安になる。
慌てて姉へ電話すると、『あっ、ハル』といつもの落ち着いた声にひとまず安心する。
「どうしたの?」
『それが、朝から熱が出てね…コンコン』
「大丈夫?」
『うん。私は大丈夫なんだけど、今日退院できなくなったのよ』
「そう…」
『喉が腫れてるから、多分風邪だろうって話なんだけど、白血球も下がってるし念のためね』
「うん」
『とりあえず、熱が下がるまでは入院したままで様子見ることになったのよ』
「わかった」
『経過見ながら今後のことは話合う事になってて、そんなに長くはならないと思うけど、まだはっきりといつまで入院になるかわからないのよ』
「そう」
『迷惑かけてごめんね』
「それはいいけど」
熱が出たことは心配ではあったが、姉さんの状態がわかり、おおごとではなかった事にほっとする。
抗がん剤治療の影響で、白血球が下がっているため、普通の風邪でも油断は出来ないんだろうけど、それなら入院して診てもらった方が安心だ。
『仕事は?大丈夫?』
「相談してみるよ」
姉さんの気遣いに、そう返す。
幸い急ぎの仕事は今はない。それに、理由が理由だから、どうにかしてもらえるだろうと思った。
『助かるわ。それから、蒼が愚図って大変だと思うけどお願いね』
「あぁ、わかった」
『夕方、奈緒ちゃんが連れて来てくれたんだけど、退院出来ないって言ったら大号泣で……。奈緒ちゃんが、どうにか連れて帰ってくれたんだけど』
きっとこの前のように泣いたんだろうなと頭に浮かび、あんな状態の蒼を連れて帰るなんて、男の俺でも大変なのにと心配になる。
大人にとっては仕方ないと理解できる事でも、蒼にとっては今日までと思って、必死に頑張ってきただけに、受け入れ難いに決まってる。
蒼の気持ちを思うと、大人の俺でも、胸が苦しくなるというのに……
そんな思いで、「急いで帰るよ」と言う。姉さんの『助かるわ』という返事を聞いて、じゃあと直ぐに電話を切った。
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