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ㅤ武神にしては珍しく、一応は温厚な部類に入るタケミカヅチである。それを、一体どうすればここまで激怒させるってんだよ、スサノヲのやつ。甚だ疑問に思いながらも、終わったことを掘り返す無粋はおかさない主義だ。多くを訊かず、さっさと踵を返す少年を、ただ見送るに留まった。
ㅤかくして通常の執務に戻ったオモイカネではあったが、〝それ〟は、程なくして起こる。
「――どういうことですか、オモイカネさんっ!」
ㅤ開け放たれた扉を反射的に捕捉する。鼈甲の双眸には少なくない驚愕の色がにじみ、平生より冷静沈着な知恵の神らしからぬ表情をかたち作らせていた。
ㅤそれもそのはず。淡々と受け答えをし、食ったような態度で接することすらある少年、いましがた退室したばかりのタケミカヅチが、混乱を隠せない様子で執務室へと舞い戻ったのだから。
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