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「そうじゃ。穂花は赤と青と白――どの花がお好きか?」
なんとも既視感に満ちあふれた問いである。
わかってる癖に、と小憎たらしく思いつつも、律儀に返してやることにする。
「赤だけど、どうして?」
「……いえ」
いぶかしげな問い返しに、色違いの双眸が、ふわり。
「なに……お疲れの身体を少しでも癒やせればと、たまには湯船に花びらを浮かべようと思い至った次第でありますよ」
「紅ってさ、わりとロマンチストだね?」
「貴女様の御心をつかむ為に、何千年と学んで参りましたゆえ」
「論破された……!」
「おや、湯浴みの手伝いをご所望か?」
「結構です!」
「ふふ、ではすぐに支度して参ります。ごゆるりとなされませ」
「行ってらっしゃいませ!」
紅のたわむれに翻弄される穂花。これが普通。いつもの平和な朝だ。
紅へ言い放つなり布団を頭から被ってみせたものの、その影でホッと頬がほころぶのを抑えきれない。
「赤がお好き、か。……では、青と白の花の行方は、どうなってしまうのでしょうな」
そんな穂花であるから、にわかにひそめられた草笛の、物悲しげな響きを捉えることは、出来なかった。
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