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「たしかに椿の……赤い花は咲きました。しかし、わたしと貴女様の神力は未だ同化していない。天が仕損じるとは到底思えませぬ。となれば、考えられることはひとつ――〝蕾を咲かせられるか否かの機会を、天は等しくお与えなさった〟」
「それって、つまり――」
「ぬしさま」
それまで大人しくなりゆきを見守っていた蒼が、唐突に声を張り上げた。
背筋を伸ばし、庭の方角へと眼を凝らしている。これまでの姿からは想像もつかないような、鋭利な常磐色をたぎらせて。
「きたよ。あお、また出る?」
主語がなくとも、紅はすべてを理解したらしい。
「……いや、そのままで良い」
なんのことだかわからない。が、なにか良からぬことが起きようとしていることだけは、わかった。
ざわめく鼓動。おもむろにまぶたを下ろした紅へ、声をかけようとしたそのときだ。
翠の絹髪を、一迅の風が舞い踊らせた。
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