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*19*桜に赦しを
生まれてはじめて目にする真剣であった。
鋭い切っ先を向けられた紅は、微動だにしない。達観した紅玉で、揺らぐことなく鼈甲の瞳を見つめ返している。
その隣で膝をそろえている蒼がきょとんと小首を傾げた拍子に、天色の長髪がさらりと肩を滑り落ちる。
「思ったより、くるの早かった……力ぶそく? でも、あおうっかりだから、ほんき出すとこわしちゃうし……」
「〝また〟死なない程度に手加減するか。俺も舐められたものだな」
「……ぬしさまから、はなれて?」
「おまえらがこれ以上俺を怒らせなければな。気をつけろよ? 俺の本業はデスクワークなんでね。こういう不馴れなもん持つと……うっかり、ぶった斬りそうになる……」
「……ぬしさまケガさせたら、あおがだまってないよ」
――そこだけ別世界であった。比喩でなんでもなく。
あの蒼が、底冷えしてしまうような低音を出すだなんて。どうして想像できよう。
常磐色の瞳孔は開ききり、風もないのに天色の髪が宙に揺らめく。
それをねめつける真知の鼈甲は、手にした刀身のごとく、力を入れずともふれるだけで肌を裂いてしまいそうな鋭さをぎらつかせていた。
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