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静かな居間は、仄かな桜の香りに包まれる。
これがサクヤの神気なのだと理解に至るほどには、神としての本質を取り戻せているのだろうか。
「身体は、なんともないの?」
サクヤは本来の姿を維持する為に、わずかな時間であっても神気を消耗する。
真知の言葉が胸につかえていた穂花は、たまらず問うた。
「えぇ、おかげさまで。此度の魂依代とは特別相性がよろしいようで、存外早く神気も安定して参りました」
「たまよりしろ……?」
「高千穂 朔馬という青年のことです。彼と私は、元々異なる存在でございまして」
「えっと……つまり」
「別人だった、と申し上げましたら、おわかりになるでしょうか」
朔馬とサクヤが別人だった。その事実は理解できる。しかし、それが意味することは想像もつかない。
首をひねる穂花を前に、自嘲気味な笑みがもれる。
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